ヴェネチアの名店ハリーズ・バー。ヘミングウェイに愛されて一世を風靡した超有名店。
この店の話は巷に溢れている、そう思いながら読み始めると、意外なことに一気に引き込まれる。
創業者ジュゼッペの息子アッリーゴの、「この本を父に捧ぐ」という一文で始まるこの本は、いきなり死にゆく父の様子から話が始まる。
家族にしか書けない話だ、もちろん全部初耳のことばかり。チプリアーニ一族が父の偉大な業績を残すために、本気でこの本に取り組んだことが伝わってくる。
ハリーズ・バーの成功には、おとぎ話のようなエピソードが溢れている。
もはやレジェンドの域のそうしたエピソードを、一番近くにいたチプリアーニ家の人間として、冷静に、誠実に、語っている。
歴史の次はリチェッタだ。誰もが期待するカルパッチョは、この店の膨大なメニューのわずか１品。バッカラ・マンテカートなどのヴェネチア料理やスパゲッティ・オーリオ・ペペロンチーノのような定番イタリア料理まで、数多くのハリーズ・バーのリチェッタが紹介されている。
長い歴史があるイタリアの料理業界では、どんな名店でも、時代の波にもまれてやがて変わっていく。ハリーズ・バーがもっとも輝いていた時代のすべてをこの１冊に残した本。

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